この問題を正しく終息させるには

2020年4月7日版(2020年4月15日追記)

文責:佐藤彰洋 (ahsato@yokohama-cu.ac.jp)

このページのまとめ

この問題を解決する方法として、以下が、唯一我々が、社会が破滅的状況となることを避ける方法であると考える。

  1. 社会的距離戦略を社会全体で採用し、直接接触頻度の減少目標値qまで人の直接接触頻度を低下させ、感染連鎖が継続しない状況を作る
  2. 新たな感染者が生まれ得ない状況を作り出し、そのような状況において、徹底的なクラスター対策と、検査、感染者の特定作業を行い、感染している人を探し出す(可能であれば発症前のウイルス保有状態で、ウイルスを減少させることができる方法を探し出し、ウイルス排出を可能とする方法の開発と日々の実行が望まれる)
  3. 検査の結果、感染が確認された方には、隔離的環境で治療に専念して頂き治癒を待つ
  4. COVID-19の発症者数が長期間に渡り確認されない状況となることを待ち、社会的距離戦略の直接接触頻度減少目標値qの上昇を待つ
  5. 社会的距離戦略の直接接触頻度減少目標値qの上昇に伴い、社会活動を再開することができ、通常の生活に戻っていくことができる

本文

COVID-19の感染拡大を終息させるためには、

環境中で活動を続ける自覚はないけど感染してしまっている感染者を見つけ出し、それら感染してしまっている方を全て探し出して、隔離設備のある医療施設で正しく治療に専念していただく

というその一言につきます。

感染された方を、探し出し、隔離設備のある医療機関で治療に専念してもらう場合、2つの重要な資源要因があります。ひとつは、探し出すための調査と検査の能力、もうひとつは、探し出して治療に入って頂くための隔離設備のある医療機関です。前者は、有限の調査人員と調査能力から有限の速度であり、後者は、有限のベッド数と医師・スタッフから有限の容量で律速されています。

なので、我々は現在直面しているこのCOVID-19という「疫病」の問題を有限の調査資源と、有限の医療資源とで解決しなければならいのです。それができなくなるほどに感染者が増加してしまった場合には、この問題は解決不能、すなわち、制御不可能であると言えます。

特に、COVID-19の感染拡大で一つよく見なければならないのは、現時点における環境中(市中ともいう)に存在する感染者の総数です。日々報告される感染者数と呼ばれているものは、実は、検査により陽性反応が認められ感染者として確認された人数であり、実際の環境中の感染者のうちの、ある部分集合であり、標本調査における標本です。すなわち、環境中の感染者とは標本調査における母集団なのです。

ある地域において確認される最初の感染者は必ずウイルスを保有する外部からの移入者との接触により発生します。そして、その最初の感染者と直接接触のある人々の履歴を経由して1次接触者、2次接触者へと感染連鎖が成長していきます。接触した履歴に応じて、検査により感染確定している人、発症した人、不顕性感染者、接触直後の人と外側に向かってドーナツ状の形状をしていると考えられます。

このドーナツ状に位置する4つの状況の人々(感染直後の人、不顕性感染者、発症した人、検査により感染確定の人)は、ある一人の感染者を見た場合には、その方の感染から検査により感染が確定されるまので時間経過に対するある一時点を見ていることに対応しています。

下の図はあるひとりの人の感染から発症までの症状の進行の様子を模式的に示したものです。WHOの報告によると不顕性感染の状態で発症の1日~3日前に感染力を有し始めると考えられています。期間はある程度の目安であり、感染直後から感染力を有するようになるまで平均的には5.6日程度と見られていますが、人により期間が異なり3日~21日のひらきがあると推察されています。また、発症してから検査機会が得られるようになるまでについても、感染したウイルスの種類や年齢によって開きがあり4日~5日で確認される場合と、1週間~2週間経過してから症状が悪化する場合があるようです。

我々が直面しているこの問題を解決へと導くためには、環境中の感染者を全て特定する必要があるのですが、特定する作業能力(または処理速度)よりも感染者数の増加速度が早い、または、同じ速度の場合はいつまでたっても環境中の感染者を全て特定することはできないのです。

なので、この問題を解決し、終息させるためには環境中の感染者の増加速度、すなわち、感染連鎖の成長速度よりも早く、感染者を特定し感染者を隔離施設のある医療機関で治療に専念して頂き、周囲の未罹患者と接触して感染が起こらないようにする必要があります。

このことを、有限の調査能力と有限の医療資源の中で達成することができれば、この問題は終息しますし、できなければ、全員が病気になるしかなくなるのです。

もし、感染率\alphaを低下させることができれば、感染連鎖の成長をゆっくりにすることが可能です。更には、もっと感染率\alphaを低下させていくと、感染連鎖の成長が止まるようになるのです。すなわち、環境中の感染者数は、その数以上に増えることがなくなっていき、新しく感染する人が生じないため、これ以上に、環境中の感染者が増えることがないようなレベルとなります。更に、感染率\alphaを減少させていくことができるとすれば、実は、自然と環境中の感染者の数は減少していき、いずれは環境中にひとりもいない状態となります。

このような感染連鎖が継続できず、感染リンクが成長しないようなレベルとなる感染率の低下率の条件として、減少目標値qが導出されます。もっとも簡単に、だれもができる感染率\alphaを低下させる方法は、人との直接接触を伴う行為をやめるということです。

これが社会的距離戦略と呼ばれる方法であり、社会的距離戦略の直接接触頻度の減少目標値とは環境中に存在する感染者を含むあらゆる人との直接的な接触頻度を減少させることで、感染率\alphaを低下させる方法となります。この社会的距離戦略を採用することで、自分自身が感染者になることから逃れることにもなりますし、また、もし、自分自身が感染したとしても、この減少目標値qを守れば、他の人に感染させ、感染連鎖を継続させることが確率的にはないのです。すなわち、この減少目標値q以下になるように直接接触頻度を低下させることにより、自身がCOVID-19に感染せず、他者へ感染させないことを保証する定量的な基準値となります。

この条件を満足するようにすることで、環境中の感染者数が増えないようにできるため、そのような社会的条件のもとで、クラスター対策と感染者の特定作業を実施することにより、環境中の感染者を減らしていくことが極めて容易になります。すなわち、この疫病を終わらせることができるようになっていくのです。

クラスター対策と感染者の特定作業の実施は、基本的にPCR検査により感染が特定された感染された方を起点とするスノーボールサンプリング(雪玉標本調査)法によって可能性のある人を全て特定していく作業が効率的です。 スノーボールサンプリング法とは、起点となる人の直接接触履歴から順次行動履歴のある人(1次接触者)を調査し、さらに1次接触者の行動履歴から2次接触者を特定することで、雪玉が大きくなるように順次調査を行う方法です。

全ての対象者の行動履歴を全て特定し、発症中の感染力を有する不顕性感染者と接触履歴のある感染直後の人まで、検査と隔離を行っていきます。スノーボールサンプリング法によって可能性のある人を全て特定し、検査と隔離を行うことができるとすると、効率的に感染直後の人まで特定し、感染拡大を未然に抑止することができると考えます。

更に、海外帰国者またはその地域に移入した人を対象にPCR検査を行うことがクラスター対策のためのスノーボールサンプリング法実施のための起点探しに極めて有効と考えます。

海外帰国者については法務省の旅券記録の名簿が使えますし、その地域に移入した人については住民基本台帳の住民票新規登録のデータが利用できると考えられます。また、短期滞在者についてはホテル・旅館の宿泊者名簿を確認する方法も、緊急事態下では協力を求められる可能性があります。

当然のことながら、感染者を探し出す調査能力は有限なので、環境中の感染者の数を減らす速度は有限の速度になります。感染者が環境中に多ければ多いほどに、作業に必要となる資源が多く必要となります。

極めて厳しい社会的距離戦略の減少目標値qが得られている状況では、ほぼ、全ての人は自宅待機の状態となります。この状態の場合、スノーボールサンプリングは電話、電子メール、チャット、ビデオ会議システムなどのオンラインの利用により、非接触の方法により自宅にいる方に比較的簡単に調査協力をお願いすることができます。そして、自宅まで防護服を着て感染リスクを管理できる担当者が訪問し、対象者のPCR検査用検体を採取することも容易です。

また、環境中の感染者を特定しても、隔離設備のある医療容量内でなければ、隔離することができなくなるため、特定後に感染率を低下させることが困難となっていきます。

そのため、この作戦の実施のためには、社会経済的な活動レベルを低下させても、実施期間内で、全ての人の生命維持を可能とできる食糧や医薬品などの社会的資源の蓄積、調査のための試薬や専門知識を持つ人的資源、および、隔離設備のある医療資源が、環境中に存在する感染者の数に比べて十分量あることが前提条件となります。

この作業を繰り返し行うことで、新規感染者確認数の減少が確認できるようになれば、標本調査が母集団に影響を与えている状況となるため、環境中の感染者を減少させていくことができていると判断可能です。

十分に感染者を減少できるところまでくれば、累積感染者確認数の増加率は低下してくるので、これをフィッティングすることにより社会的距離戦略の減少目標値qを再計算することで、結果、減少目標値qの値は、以前の値と比較して確実に上昇します。

遅れ付き確率的SIRモデルによるシミュレーションは、我々の行動がどのように作用しているかについての極めて有効な指針となります。これまでの累積感染者確認数の増加傾向から推計されるパラメータを使い、数値シミュレーションによって将来予測値を計算します。そして、その後、新しく得られる実測データとシミュレーション結果との差を確認します。この差については以下の3通りが考えられます。

  1. 実測のほうがシミュレーション結果より上側に外れる:現実はシミュレーションで仮定される前提やシナリオに比べて悪いという判断ができる。すなわち、我々はもっと対策をするべきであると理解できる。
  2. 実測とシミュレーション結果が一致する:現実はシミュレーションで仮定される前提やシナリオとほぼ同じ状況であると理解できる。
  3. 実測のほうがシミュレーション結果より下側に外れる:現実はシミュレーションで仮定される前提やシナリオよりもよい状況であると判断できる。すなわち我々の対策が効果を示していると理解できる。

①と③の場合には、パラメータの再計算とシナリオの見直しが必要となります。シナリオとパラメータを変えて、シミュレーションのためのパラメータを再度推計しなおします。その結果、シミュレーションにより得られる将来予想が更新され、社会的距離戦略における減少目標値qの見直しが行われます。①の場合は、減少目標値qは低下します。③の場合は、減少目標値qは上昇します。

更新された社会的距離戦略の直接接触頻度減少目標値qを採用することで、感染リンクの成長を止めるよう、直接接触頻度を見直し行動変化を行いながら、上述のクラスター対策のためのスノーボールサンプリングを繰り返します。

もし、減少目標値qが以前より上昇している状況にあるならば、再度その目標値で生活をおこないながら、クラスター対策を繰り返していきます。

その結果、十分量の感染者が確定できるとすると、新規感染者は徐々に見つけられなくなっていくでしょう。すなわち、社会的距離戦略の減少目標値qは、更に、上昇を続け、最後には通常の生活に戻るまで減少目標値qは上昇すると期待されます。

この操作を、決められた領域(市区町村や都道府県)または、組織内で繰り返していくことによって、結果、最終的に我々は通常の生活戻っていくことができるようになるのです。