社会的距離戦略における減少目標値の解釈

2020年3月21日版

文責:佐藤彰洋 (ahsato@yokohama-cu.ac.jp)

社会的距離戦略(social distancing)では、ひとりひとりの行動の総体の結果生ずる感染率を、個々の行動変容により減少させることにより、COVID-19の感染拡大を抑止し、終息させることができるかを問うています。

更に、減少目標値qとは、我々一人一人に対して、どこまでヒトとの直接接触頻度を減少させるべきかについて、その目標値を与えていると解釈できます。

すなわち、社会にいる全ての人がこの減少目標値まで、これまで常識と思われていた、ヒトとの直接接触に関連する行動を変化させ、そのような行動を慎み、その頻度を減少させることで、感染連鎖断つことに貢献できると考えます。

この活動により多くの人々が参加することで、社会全体として、COVID-19の感染拡大を抑止し、感染の蔓延とこの感染症の流行を終息させることができると理解します。

ここで言う、「終息」とは、長期間に渡りCOVID-19の感染者の発生が確認されないような状態が実現することを意味しています。それは、COVID-19が現れる以前の状態に戻り、我々がそれ以前、日常と思っていた生活を取り戻せることを意味します。

一般に減少目標値qとは、感染者が発見されるような事象がその地域において少なくなればなるほどに、上昇していく傾向があります。すなわち、皆が協力してヒトとの直接接触を減少させる努力を行い、感染抑止活動に協力的であるほどに、その地域における感染率は一般的に低下していき、更に、感染者が発見される事象の発生頻度は減少していきます。その結果、計算から推計される感染率は低下し、減少目標値qは上昇していくのです。

これは、より多くの人々が、社会的距離戦略に長期間に渡り協力的になればなるほどに、その地域における減少目標値qは100%を超える状況となっていき、行動抑制から行動再開へと向かっていくことを意味します。すなわち、これら社会的距離戦略に協力的である人々が暮らす地域において、徐々にこれまでに近い生活を取り戻していくことができることを意味しているのです。

推計時点で、自分自身が行っている直近での行動様式を思い起こし、現時点における人との直接接触頻度を参照として、そこからの頻度減少目標値をqと表現しています。

例として、2020年3月20日現在、北海道で生活をしている人の公共交通(鉄道やバス)の利用時間が1日当たり90分である人について考えてみます。北海道では2020年3月20日現在、減少目標値q=25%と計算されていますので(都道府県ごとのシミュレーションによる検討を参照)、

90分/日×25% = 22.5分/日

以下まで公共交通の利用頻度を減少させるることができれば、COVID-19の感染拡大を抑止しこの流行を終息する活動に貢献しているという計算になります。もちろん、このような、減少目標値qに対して、社会的距離戦略を社会の全ての人が同時に行わなければ終息を達成することはできません。

兵庫県では2020年3月20日現在の条件は、もっと厳しく

90分/日×9%=8.1分/日

以下まで減少させなければ流行を終息することができない水準にまで危険性が高まっているという計算になります。すなわち兵庫県の人々は、極めて短期間の公共交通の利用に限定し、不用不急の外出は行わないなど、ヒトとの直接接触機会を有意に減少さるほどの大きな行動変化をおこさなければ、感染拡大を抑止し、この流行を終息することができない危険な水準にあると考えます。

また、他の例としまして、北海道で生活をするある人が現時点で、1週間当たり、50人と仕事上の打ち合わせや趣味などでヒトとの直接接触行動を行っているとします。

これは専門家委員会が述べている避けるべき3つの条件(手の届く距離で接する、屋内の風通しの悪い室内、人々が集まり同時に会話をする)の重なりを満足するような、会議や打ち合わせ、商談や談笑も含みます。

前述同様、2020年3月20日現在、北海道では減少目標値q=25%と計算されますので

50人/週 × 25%=12.5人/週

まで減少させることができれば、感染症の流行は終息できることを意味しています。北海道で生活する全ての人がこの減少目標値qを同時に守ることが重要です。

兵庫県で、同様に1週間あたり50人のヒトとの直接接触を行っている人を考えてみると、減少目標値q=9%の達成は、もっと厳しくなり、

50人/週 × 9% = 4.5人/週

という計算結果となります。

終息させて以前の生活に戻りたいと思うのであれば、1週間当たり50人と会っている人は、1週間当たり、4.5人とだけの直接的な接触にとどめ、頻度を低下させるような大きな行動パターンの変化を作り出すことが必要です。

直接接触頻度を減少させることで、これまで直接会って意思疎通を行っていた人々とは直接接触ができなくなるので、その部分については、電話や、ビデオ会議、電子メールなどに置き換えをし、直接接触を伴わないような連絡や会話の代替手段を用いることで直接接触頻度の減少を試みます。

減少目標値qが小さいということは、その地域で生活する人々が、ヒトとの直接接触頻度を目標値レベル以下まで厳密に低下させなければ、感染症拡大を抑止し終息させることができない厳しい状況にあることを示す、ある種の指標(KPI)とも理解することができます。

特に、複数のクラスターが確認され、成長し流行発生や爆発的な感染拡大 「オーバーシュート」 の兆しが確認される地域では、減少目標値qは極めて小さな値となります。すなわち、状況が悪化しているということを意味する値となります。

COVID-19の感染から発症、風邪や花粉症様症状がみられる初期症状から、重症化して悪化し感染が疑われるようになるまで、通常14日(2週間)が必要です。これは接触から発症まで3日~14日(平均5.6日)の潜伏期間があり、更に1週間(7日程度)の通常の風邪や花粉症と区別できない初期症状が継続してから、2週間目になって重症化してやっと、COVID-19の感染が疑われ、検査機会が得られて感染が確定できることから計算される平均的な遅れです。すでに感染してしまっても、2週間後でしか判断できないし、分かった後には感染しない、させないような行動をできる選択肢が実はほとんど存在していないのです。

そのため、社会的距離戦略では、危険回避的行動を事前に選択することを基本戦略とし、感染者の発見後にどのような対応をするべきかに注目するのではなく、感染する機会を事前にできるだけ社会全体で減少させるかに着目し、この減少目標値をqとして地域社会で共有します。また、この減少目標値の達成は、社会全体で最低でも2週間以上継続されなければ感染者数の減少として確認できません。そのため、減少目標値qは時間的に変化していきますが、行動選択を多くの人々が行うようになってから、2週間以上というある程度長期間に渡り、皆が協力することで感染拡大抑止効果が確認されるようになってからしか更新されえない遅効性指標であるということが分かります。

すなわち、社会的距離戦略の減少目標値qとは、COVID-19の感染拡大抑止と終息を目指す場合に、ヒトとの直接接触が許容できる目標値なのです。この減少目標値を設定し、ひとりひとりが減少目標値を目指して社会的距離戦略を採用することにより、感染率低減効果が発揮され、COVID-19の感染拡大を抑止、終息させることができる。減少目標値qは、この方法と行動変容のための具体的かつ定量的な目標を我々に与えていると解釈することができるのです。

参考文献