経済社会面への影響分析

2020年3月25日版(2020年4月22日追記)

文責:佐藤彰洋 (ahsato@yokohama-cu.ac.jp)


農業セクターへの影響の可能性について

農業セクターは60歳以上の人口が50%超えています。高齢者のCOVID-19の重症化率は高く、蔓延しはじめるとその重症化率は高齢者では50%を超えると考えます。そのため、今後、新型コロナウイルスの感染が爆発的感染の発生により蔓延しはじめ、農業セクターにその感染が広がると、今年の作付けができなくなる可能性が高まっていきます。

出典 農業構造動態調査(農林水産省・2019年) https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukou/index.html (e-Stat 2-1-2 都道府県別 販売農家  農家人口、就業構造)

・販売農家 3,984.4(64歳以下 2,183.2、65歳以上 1,801.1)(以下同): 経営耕地面積が30a以上又は調査期日前1年間における農産物販売金額が50万円以上の農家をいう。
・基幹的農業従事者数 1,404.1(425.2、978.8): 自営農業に主として従事した世帯員のうち仕事が主の世帯員数。
・非基幹的農業従事者数2,580.3(1,758.0 822.3): 「販売農家 世帯員数」から「基幹的農業従事者数」を減じたもの。

その結果、今年の食糧生産量は著しく減退することが予想されます。農業セクターは基本的に大企業と異なり、小規模の農家が大多数を占めていますので、事業継続計画(BCP)の策定や実施はほぼできないと考えるのがよいと思います。

そのため、大規模な蔓延が発生する時点をもって、2020年の農業生産量の減退に伴う国内の食料不足による2021年の飢饉発生のリスクシナリオが顕在化し、すでに、その可能性を現時点において十分想定しておくべきです。

世界的に見ても、対策が長期化する国については、同様の状況となるでしょうから、終息が長引くほどに世界的な食糧危機(飢饉)の2021年におけるリスクシナリオ実現の可能性が高まっていきます。

更に、世界的な食糧不足局面においては、緊急輸入などによる食料調達も不可能となろうかと思われますので、大規模なCOVID-19の感染拡大(=疫病の蔓延)は何としても食い止める必要があると考えます。

古来より、飢饉と疫病はセットで語られますが、死亡率または重症化率の高い感染症の蔓延(疫病)発生後に社会の生産能力の減退が生じることがそのひとつの原因ではないかと考えます。

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電力系セクターへの影響の可能性について

電力系セクター内の発送電設備を運営する組織内で集団感染事象が発生しますと、電力供給量に減退が発生する危険性があります。これは、発電設備、送電設備の特殊技能を有する要員が発症し重症化または死亡することで、発送電設備の運営ができなくなり、その結果設備を停止しなければならなくなるというリスクシナリオです。

このリスクシナリオに関連する国内外事例として、各種工事現場、工場、運転に特殊能力が必要となる原子力空母内での集団感染事例として以下の新聞・テレビで取り上げられているものが挙げられます。

重症化した場合、交代要員不足のため縮退運転がはじまると考えます。これが発生しますと、国内での電力不足が懸念されますため、国内での生産能力の著しい減退により、感染症対策が不可能となります。医療機関も稼働できなくなるため、せっかく準備している医療設備や呼吸器も作動しなくなります。

電力セクターは基本的に、事業継続計画(BCP)を有していますが、疫病に関するリスクシナリオについては、実は、過去100年間この規模の疫病を誰も経験したことがないため、現在想定されている電力セクターが有する疫病発生時の事業継続計画が、実際に、過酷局面において事業継続を担保できるかについては、不確実性が高いと考えるべきです。

更に、日本企業は基本的に年功序列による組織構造を有していますが、今回のCOVID-19は高齢者ほどに重症化や死亡リスクが早く顕在化していきます。そのため、電力セクターの管理職が感染し、発症、重症化することにより、各種のオペレーションにかかる決済事項が停滞する可能性についても事業継続計画で検討されているかが重要であると考えます。

すでに米国でもこの問題について強い危機感から、対策を検討しているようですが、少人数の専門運転員の人員計画については抜本的な対策方法がないため、広域および他社間での専門運転員の人員融通が可能かについて連絡会議体を形成して対応協議している段階であるようです。更に、大雨や洪水、ハリケーンなどの自然災害発生と複合した場合に復旧計画が、感染蔓延の現状で正常に実行できるかについて検討が進められているようです。

Wired 電力供給を止めず、人工呼吸器を動かし続けるために:新型コロナウイルス感染症と米電力会社の闘い  2020.04.09 THU 09:00

その後、国内電力会社内で新型コロナウイルスへの感染事例が確認されるようになってきています。これから2週間程度でどの程度まで電力セクターにおいて、組織的に感染拡大が食い止められるかが重要ではないかと思います。(2020年4月25日追記分)

東洋経済 本社や原発でコロナ感染、電力会社が重大局面 東電は8人感染、自宅待機や工事中断が相次ぐ  2020/04/21 5:00

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海上輸送への影響の可能性について

各国のクルーズ船、原子力空母におけるCOVID-19の集団感染事例から、海上輸送への多大な影響を懸念します。具体的事例としては以下が挙げられます。

同様のことは、海上輸送用の大型貨物船やタンカーにおいても発生し得る事象と考えます。海上輸送用の貨物船やタンカー内で集団感染が発生し死者が出るような過酷事象が発生した場合、海上で航行不能となることは上記の事例からも起こり得るシナリオです。また、このようなリスクシナリオを考慮し、各船主は長距離長時間の海上輸送について実行性を失うことから、輸送を引き受けられなくなるとも考えられます。すなわち、COVID-19の終息が長期化することにより、我が国の海上貿易の多くが不通となるリスクシナリオが顕在化していくことになります。

国土交通省の我が国の品目別海上貿易量に関するオープンデータ (我が国の品目別海上貿易量及び貿易額 )によると、平成24年度において我が国では工業製品の原材料、穀物などの食料、原油などの燃料の多くの輸入を海上輸送に頼っていたことが分かります。具体的には、工業原材料(鉄鉱石、石炭、燐鉱石、塩、銅鉱、ニッケル鉱、ボーキサイト、木材、パルプ、チップ)、食糧・飼料(小麦、米、大麦・裸麦、トウモロコシ、大豆)、燃料・化学原材料(原油、LNG、LPG、重油)などが主要品目です。

鉱工業原料の輸入については、短期的な輸入量の縮退が生じても、生命維持活動にすぐさま影響がでることはありませんが、食糧・飼料(小麦、米、大麦・裸麦、トウモロコシ、大豆)並びに燃料・化学原材料(原油、LNG、LPG、重油)などの海上輸送能力の減退が発生した場合には、食糧供給量の減少、及び、火力発電量の減退による停電発生、ガソリンの不足に伴う陸上輸送・交通の不可能、化学原材料の不足に伴う、物質の不足など生命維持活動を不可能とするリスクシナリオが顕在化していくと考えます。

更に、現在のCOVID-19の感染拡大は全世界規模であるので、国内でこれら海上輸送能力を賄うことができなくなった場合に、代替的に他国の海外輸送能力に頼る方法も少ないと予想されるため、この感染拡大の終息が長期化することにより日本国内における飢餓、停電、陸上物流・陸上交通の停止のリスクが極めて高くなると危惧します。

米の備蓄量が約180日分(農林水産省広報資料)、燃料備蓄量が約230日分(資源エネルギー庁石油備蓄の現状令和2年4月分)であることを考慮すると、もし、終息が長期化し感染連鎖を止めることができないとすると、2020年第4四半期からこれら海上輸送能力の縮退による社会的な影響が顕著になっていくと推察します。