COVID-19拡散メカニズムと対策検討資料

目次

COVID-19(新型肺炎) 拡散メカニズムと対策検討資料

感染の種類
感染の概念図
COVID-19感染拡大のモデル
状態推移式
COVID-19の数理モデル
COVID-19のパラメータ推定値
感染率低下シナリオのモデル
政策的接触確率低下対応
論点
対策が必要な点

COVID-19(新型肺炎) 拡散メカニズムと対策検討資料

2020年3月13日版

COVID-19(新型肺炎)による感染拡大は経済社会的な多くの損失を発生させる。そのため、このウイルスの感染のメカニズムを理解し、これに正しく当たることにより、社会全体で協力して感染を抑制することは、現在、極めて重要な課題となっている。

この検討資料は、COVID-19の感染拡大を抑制するための方法と課題について検討した内容をまとめたものである。情報の追加や新しい知見が得られるたびに情報の更新を行っていく。

不明点や表現の分かりにくい場合は、お問合せから質問頂きたい。より多くの質問を得られることにより、検討内容の改善をすすめることで、多くの人に分かりやすい内容とすることを試みたい。どうぞ、積極的に質問頂き、この全社会的な課題について対応ができる検討資料となるようにご協力頂きたい。

感染の種類

今回のCOVID-19(新型肺炎)の感染の種類として以下3種類が支配的であるとみられている。

  • 飛沫感染
  • 飛沫核感染(埃塵感染)
  • 接触感染

飛沫感染について政府専門家会議では、以下のことを指摘している。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00008.html

  1. 一般的な状況での感染経路は飛沫感染、接触感染ですが、閉鎖空間で、近距離で多くの人と会話をするなどの一定の環境下であれば、咳やくしゃみ等がなくても感染するリスクがあります。
  2. また、感染力は事例によって様々で、一部に、特定の人から多くの人に感染が拡大したと疑われる事例がある一方で、多くの事例では感染者は周囲の人にほとんど感染させていません。
  3. さらに、罹患しても軽症であったり、治癒する例も多いですが、重症度としては、季節性インフルエンザと比べて高いリスクがあります。特に、高齢者・基礎疾患を有する者では重症化するリスクが高いです。

また、政府専門家会議では以下の「3つの条件の重なり」を特に避けることを強く呼びかけている。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/view/

  1. 換気の悪い密閉空間
  2. 多くの人が密集
  3. 近距離での会話や発声

これらに加えて、以下の点について追加で検討が必要と考える。

短時間でも閉鎖空間内では、埃塵に付着して感染を広げる危険性について検討が必要とみます。マスクを着用する、外気を入れる、空気清浄機による埃塵量の低減が対策として有効とされるのはこの理由のためと推察しています。屋内におて埃塵を低減するための措置をとることは感染率低下に効果があると考えてよいでしょう。

接触感染のリスクを低減させるため、感染者または不特定多数が触れたものの表面にウイルスが付着していると考えた方がよいです。金属やプラスチック表面では1週間はウイルスの活性が保持されると考えられています。ドアノブ、照明のスイッチ、床、リモコン、エレベーターのボタン、手すりなどはこまめに除染することで、感染率低減に効果的な作用があると考えます。

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感染の概念図

未罹患者、不顕性感染者、感染者、回復者、死亡者があります。感染を広げる恐れがあり、環境内に存在している感染者と、感染が特定され隔離され医療を受けられる状態にある感染者の2種類があります。ここで、環境とはウイルスに感染しているが、医療にかかることなく日常生活をおくっている状況を指します。例えば、COVID-19に感染しているがごく普通の風邪と認識して生活している状況や、医療にかかる前に肺炎が重症化して死亡後に感染していたことが確認される状況です。また、感染者はいずれは回復者または死亡者のとちらかの状態となります。

感染拡大を抑制するための取組として以下の3点が挙げられます。

  1. 健康な人が感染しないための対策(政策)
  2. 感染を広げることを抑制し、対策をする人が感染しないようにする対策(公衆衛生)
  3. 罹患者の回復率を高め、死亡率を低下させる治療(医療)

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COVID-19感染拡大のモデル

図に示すようにヒトBとウイルスAとを考える。更に、ヒトBの状態として3つの状態を仮定する。Sは未罹患の状態、Iは罹患の状態、Rは罹患の状態から回復または環境中から除去された状態を指す。環境中から除去された状態とは、感染者が未罹患状態と接触することがないように隔離された状態および、死亡して接触機会がなくなった状態を含む。

未罹患状態SのヒトB(S)がウイルスAと接触することで、罹患状態Iに変化してB(I)となる。このことを

B(S)+A→B(I)

と表記する。罹患状態IであるヒトB(I)は、n個のウイルスAを体外に放出する。このことを

B(I)→B(I)+nA

と表記する。罹患状態であるヒトB(I)は未罹患状態Sまたは回復状態Rになり得る。このことを

B(I)→B(R) or B(S) (回復後免疫を獲得することができるかについては不明)

と表記する。

回復状態RとはウイルスAに対して抵抗力を持ち、二度と罹患状態Iにならない状況であるが、シミュレーション上の解釈では、検査で陽性と判断されることで、医療にかかり、隔離措置により他者への感染の恐れがなくなった状態を意味する。医療にかかった感染者はある割合で回復し、二度と罹患状態にIにならなくなるか、死亡する。今回のCOVID-19(新型肺炎)で回復後免疫を獲得できるかについてはまだ十分にわかっていない。再発や再感染が指摘されているため、状態Sへの遷移が起こり得るが、モデルを単純化するために今は、

B(I) → B(R)

だけを考えることにする。 以上をまとめると状態方程式となる。

状態推移式

B(S) + A → B(I)

B(I) → B(I) + nA

B(I) → B(R)

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COVID-19の数理モデル

感染者数や回復者数、死亡者数がどのように時間発展するかを調べることにより、流行が拡大しているか収束していくのかを判断することができる。その為、それらの人数の時間発展がどのように変化をするかについて、その時間発展を遅れ付SIRモデルによりモデル化してみる。

COVID-19のSIRモデルの変数として、時刻tにおける上述のB(S)の人数をS(t)、上述罹患状態B(I)にある人数をI(t)、上述回復した状態にあるB(R)の人数をR(t)と記述する。

  • S(t): 未感染の状態の人の人数
  • I(t): 感染した状態の人の人数
  • R(t): 回復または除去された状態の人数

潜伏期間(3日~14日), 症状発症(1週間), 重症化(発症後2週間)を経てから感染が疑われて検査機会を獲得して、感染が確認できる。そのため、遅れ時間τは14日~21日とするのが妥当(接触事象が発生してから実際に罹患して感染が確認できるようになるまで2週間以上必要)である。

上述の状態推移式を簡略化して、未罹患者と感染者との直接的な接触による感染だけを特にモデル化してみる。状態推移式の最初の2式を足し合わせてみる。

B(S) + A + B(I) → B(I) + B(I) + nA

ウイルスAの数nを無視して、ウイルスAを両辺から消去することで、以下の推移式が得られる。

B(S) + B(I) → B(I) + B(I)

結局、以下の単純化された状態推移式としてまとめることができる。

単純化された状態推移式

B(S) + B(I) → B(I) + B(I) (w.p. α )

B(I) → B(R) (w.p. β )

ここで、未罹患状態のヒトと感染しているヒトが接触して感染する可能性は未罹患者と感染者の人数の積に比例し、総数が大きいほどそれらのヒトの直接接触の可能性が低くなるため、感染しにくくなる。このとき、単位時間当たりに直接接触したヒトのうち、どの程度の割合で感染するかの可能性を感染率αと呼ぶ。また、感染者が回復または死亡する割合は単位時間当たりある一定の割合であり、この割合を回復率βと呼ぶ。このことをそれぞれの人数S(t), I(t), R(t)の時間発展として以下の常微分方程式として表現する。

遅れ付SIRモデル

(1)   \begin{eqnarray*}\frac{dS}{dt} &=& -\alpha \frac{S(t)I(t)}{N(t)} \\ \frac{dI}{dt} &=& \alpha \frac{S(t-\tau)I(t-\tau)}{N(t-\tau)} - \beta I(t) \\ \frac{dR}{dt} &=& \beta I(t) \end{eqnarray*}

(2)   \begin{eqnarray*} S(0) &=& N_0 \\ I(t) &=& I_0(t) \quad (-\tau \leq t \leq 0) \\ R(0) &=& 0, \\ N(t) &=& S(t)+I(t)+R(t) \end{eqnarray*}

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COVID-19のパラメータ推定値

感染率αと回復率βとを実際のデータからフィッテングにより推計してみる。感染者数の推移のデータは国内感染状況(NHK)まとめから取得した。(別途詳細な分析については数値シミュレーションによる検討を参照)

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/

日本における2月16日から3月8日までの感染者数のデータを使い、3月1日から3月8日までの感染者数の時系列とモデル計算値との二乗誤差をできるだけ小さくできるように 感染率αと回復率β の推定を行った。各種の仮定されるべきパラメータは、以下のように日本国内における各種の報告値を用いて、

を仮定した。ここで、遅れ付SIRモデルでは一般に基本再生産数R0と感染率α、回復率βとの間には媒介変数aを導入して以下の関係が成り立つことが知られている。

(3)   \begin{eqnarray*}\alpha &=& \frac{a R0}{R0-1}\exp(a \tau) \\ \beta &=& \frac{a}{R0-1}\end{eqnarray*}

感染者数の日次時系列データI_o(t)とモデルから計算される数値シミュレーション値\hat{I}(t; \alpha, \beta)に対する二乗誤差は以下で定義される。

(4)   \begin{equation*}E(\alpha, \beta) = \sum_{t=\mbox{3/1}}^{\mbox{3/8}} \Bigl(I_o(t)-\hat{I}(t; \alpha, \beta)\Bigr)^2\end{equation*}

この二乗誤差E(\alpha, \beta)はパラメータ\alpha\betaの関数であるがお、自己再生産数R0=3.0と仮定することにより、モデルの調整は媒介変数aだけで、パラメータ\alpha, \betaの推計が可能となる。その結果、二乗誤差は媒介変数aのみの関数E(a)となる。二乗誤差ができる限り小さくなるaの値から、パラメータ推定値として以下の値を得た。

  • 感染率 α: 0.623
  • 回復率 β: 0.0505
  • E = 649.38

数値シミュレーションで計算される3月1日から3月31日までの感染者数の時間発展は以下のとおりである。ここで、3月1日から3月8日の14日前の感染率がそれ以前の値のままで継続していると仮定している。

数値シミュレーションから得られた感染者数〇と日次感染者数の実測値(NHKまとめ、クルーズ船等除く)●

2月27日から政府の要請により、大規模イベントの自粛が始まり、3月3日から小中高等学校の休校措置がとられたため、接触確率の低下によりその後の感染率は低下していることが期待される。

その影響が感染者数の増減として確認できるのは、早くて3月10日からである。3月10日までの全国での感染者数の実測値は、数値シミュレーションより3月9日から下側に外れている。このことから、2月27日から始まったイベント、公共施設の一斉休館による、接触頻度の低減措置は感染率低下に効果があったとみることができそうである。どの程度の感染率の低減効果があったかについての推計は「数値シミュレーションによる検討」に詳しく記載しているが、20%前後の感染率低減効果があったものと推計している。

大規模イベントの自粛を行っても、20%前後した感染率低減効果がなかった理由として、COVID-19の感染経路が会議やライブハウス、介護、飲食、小売、接客業などヒトの直接接触を伴う、一般的な経済社会活動で十分感染がおこりえる状況となっているため、大規模イベント自粛による直接接触頻度の低減だけではまだ、十分に感染者を減少させるまでの感染率低減効果が得られていないものと考える。

また、小中高等学校の休校措置による感染率低減効果については、3月17日頃からの感染者数の報告値がどの程度シミュレーション結果と乖離するのかを見ることで、定量的な判断ができると考える。

この数値シミュレーション結果より3月17日頃からの感染者数の報告値が大きく下側に推移していればイベント自粛と小中高等学校の一斉休校措置により、ヒトの直接接触の頻度が大幅に減少したことで、感染率の低下が誘導できたと判断できると考えることができそうである。

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感染率低下シナリオのモデル

感染率αを対策の導入により低下させることができるとする。政策的な対策により、接触確率を低下させるや、消毒の徹底により接触感染を減らす、罹患者の適切な把握と処置などを行い、どの程度まで感染率を低下させると感染者数は減少に転じるかを検討する。

感染率低下シナリオモデルにおける変数

  • S(t): 未感染の状態の人数
  • I(t): 感染した状態の人数
  • R(t): 回復または除去された状態の人数
  • α(t) = α0 Vul(t) : 感染率(ここで、 α0 は前述の感染率の推定値である)

対策により、Vul(t)を1以下に変更できると仮定する。具体的には、ヒトの接触頻度を低下させる政策的または公衆衛生上の措置である。

  • テレワークや時差出勤などの直接接触を低減させる措置
  • イベントの自粛または禁止による接触回数を減らす措置
  • 移動制限や外出禁止の強制力を有する対応
  • 学校や公共施設の閉鎖による人が集まりにくくなる措置
  • 大規模な消毒活動の実施など

(5)   \begin{equation*} Vul(t) = \left\{ \begin{array}{cc} 1 & (t< T) \\ q & (t \geq T) \end{array}\right.\end{equation*}

このとき、Vul(t)をどの程度まで小さくできれば、感染者数は減少に転じるかをパラメータqを導入して検討してみる。

(6)   \begin{eqnarray*}\frac{dS}{dt} &=& -\alpha(t)  \frac{S(t)I(t)}{N(t)} \\ \frac{dI}{dt} &=& \alpha(t-\tau)  \frac{S(t-\tau)I(t-\tau)}{N(t-\tau)} - \beta I(t) \\ \frac{dR}{dt}  &=& \beta I(t) \end{eqnarray*}

(7)   \begin{eqnarray*} S(0) &=& N_0 \\ I(t) &=&  I_0(t) \quad (-\tau \leq t \leq 0) \\ R(0) &=& 0, \\ N(t)  &=& S(t)+I(t)+R(t) \end{eqnarray*}

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感染率低下シナリオの数値シミュレーション結果

感染率αを現状の3% (q=0.03) まで2020年3月15日から低下させることができた場合、3月30日頃から感染者数を低減でき、6月初旬には収束が可能。

感染率αを現状の6% (q=0.06) に2020年3月15日から低下させることができた場合、3月30日頃から感染者数を低減できる見込み。その後緩やかに感染者数は減少する。

感染率αを現状の7% (q=0.07) に2020年3月15日から低下させることができたとすると、感染者拡大を食い止めることが可能となる。

感染率αを現状の8% (q=0.08) に2020年3月15日から低下させることができたとしても、感染者数を低減できないが、感染拡大の抑制効果は確認できる。

感染率αを現状の10% (q=0.1) に2020年3月15日から低下できたとしても、感染者数を低減することはできない。

感染率を低下させるために誰もができる最も簡単な対応方法は、ヒトの直接接触の機会をできるだけ小さくすることである。例えば、これまで1週間に50人の人と会っていたヒトがいたとすると、これを6%まで削減して、1週間3人までとしか直接接触を行わないようにすれば、実質的な感染率は6%程度になると期待される。

また、感染者に対して専門の対応を行う必要のある人は、マスクおよび防護服を着てその可能性のあるヒトと接触するたびに自身の全身消毒をくまなく行うなどのウイルスを除去しながら、作業を行うことが挙げられる。

また、食事を行う場合は常に目の前で加熱してから摂取することでウイルスを経口摂取する可能性が減ると予想される。

これらの対応を永遠と行う必要はなく、多くの人が共同して感染率をこれまでの6%以下に保つ行動を2週間以上継続できれば、感染者数の減少が起こり始めると期待される。そして、一旦感染者数がほぼいない状況となれば、以前のような生活を取り戻すことが可能である。

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政策的接触確率低下対応

  • 感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律、平成二十六年法律第百十五)は知事の発令である程度の社会的な活動に制限をかけることができるので、現在は、この法律の運用をもって政策的に接触確率を下げることを第一に考えるべき
  • 接触感染から発症、重症化による検査機会の獲得により陽性反応検知まで通常2週間から3週間を要しているため、原因と結果との時間が遠く、対応するには原因である感染確率(接触確率)をどこまで低下させることができるかが重要な点である(現在見えていることは2週間~3週間前の接触感染により発生しているものである)
  • 接触確率を低下させることにより感染確率低下から実際に感染者の減少が目で見えて判明するまで、2週間から3週間を必要とするため、早めの対処が効果的であると伴に、応答まで最低2週間は政策を維持する必要がある

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論点

  • 組織内で感染が疑われる構成員が発生した場合における対応方法や、感染が疑われる職員の自宅待機のための管理方法
  • PCR検査の検査結果の判断、感染の疑いがある構成員に対する業務復帰の基準などについて
  • 組織内で感染者がでて感染が組織内で広がっていく可能性のある状況において、建物の消毒の方法、組織内で感染を抑制しながら、必要な業務を実施するための事業継続計画の策定とその管理方法についてアドバイス
  • 感染が今後拡大していった場合の公衆衛生上の対応方法についてと、そのプロトコルについて知識提供
  • 治療の観点よりは公衆衛生上の観点を地方自治体、企業は求めている
  • 除染方法、感染予防、感染抑止の方法についてアドバイスをしてもらえる専門的知識を探している

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対策が必要な点

  • 今後COVID-19の組織内集団感染の発生により、事業継続検討案件が世界中で多発すると考える
  • 業務継続のための対応方針と連絡体制について拡充必要
  • 今回の感染症拡大ではこれまで通常行われてきた業務や人間社会的な活動を通じて感染が拡大している
  • 災害対策のように対策本部を構成し、人が集まって感染症対策を行おうとすることは、移動および直接接触による対策本部内での感染確率を高める可能性が高い
  • ICTによる情報共有、連絡体制、感染拡大抑制のための活動体制(手法、ロジスティックス含む)の構築が最も重要な政策的な課題

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